読むと家族との思い出が良くも悪くも蘇る『母がしんどい』/『背中の記憶』

家族がテーマで、正反対の二冊


家族がテーマの二冊。根底に流れるものが不幸か幸福か、180度違う本です。

嫌い回路が一度できるとしんどい


『母がしんどい』かわいい絵柄ですが、内容は毒親との逃げ場のない生活と、独立を描いたヘビーな一冊です。
ずっと読みたかった一冊。

しかし日記でもつけていたのでしょうか。よくこんなにひとつひとつを覚えているものです。幸せな記憶ならこうも具体的に、細部までいくつも覚えていないと思います。

この人が嫌い、という回路が一度できてしまうと、ほらやっぱり、ほらやっぱり、とポイントが加算されていってなかなか挽回がききにくくなります。回路ができたときはその人から距離を置くしか手段はないと個人的には思うのですが相手が親だとこれはしんどい。

この本を読むと自分が親にされた嫌だったことが鮮明に思い出される嫌なオプションがついてきます。

親子連れを街で見ると、私が子供だったころよりすごく親が子供に対して優しい印象があります。親が優しくなったというより、育児書や子育てのトレンドがこうなんじゃないかなと思います。

どうってことないことを格調高く描いた『背中の記憶』


『背中の記憶』は作者が子供だったころの周りの大人たちのエピソードを集めた本です。

なんかこう書くととるに足らないように見えてしまうのですが、描く目線がなんとも独特の格調高さがあって読んでて気持ちいい。多くの人がしているはずの経験なのにそれを見るレンズが美しい。

この人はほんとに現代日本人なのかと思うくらい、昔の『暮しの手帖』を読んでいるような懐かしい厳かさがある。三島由紀夫賞候補になったそうで、受賞しなかったのが不思議ですよ。

『母がしんどい』同様に作者がびっくりするほど子供のころの思い出を持ち続けているのですが、『背中の記憶』ではあとがきに「子供と生活していると、すっかり忘れていた自分の幼いころのワンシーンが鮮明に蘇ってくる」とありました。

不幸なことはいつまでもしこりのように残りつづけるけれど、幸福なことはきっかけがないと思い出せないのかもしれない。

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